© Kenta Onoguchi 2022年WTCS横浜

Profile

内田弦大選手 
© Kenta Onoguchi 2023年WTCS横浜

内田弦大選手 Genta Uchida

1997年、滋賀県高島市生まれ、27歳。スタンダード(51.5㎞)を中心に活躍するプロトライアスリート。滋賀県スポーツ協会所属。小学1年生から9年間は競泳に取り組み全国中学競泳大会に出場。高校から陸上を始め、800mで全国高校生陸上競技大会に出場し、その後、関西大学に入学したことをきっかけにトライアスロンを始める。

2016年にU19日本代表に選出され、2016年、2017年と日本学生トライアスロン選手権を連覇。2019年日本トライアスロン選手権で5位入賞を果たす。2022年ASTCポカラで海外レース初優勝。現在は、イギリスのカーディフを拠点に競技活動をしている。

1日5食、脂質を徹底管理

PG 食事に自分的なルールや意識されていることはありますか?

内田 ジャンキーなものを食べない。特に脂質を意識してます。海外に行ったときに自分より強い人がいっぱいいて、まずはその人たちのマネをしようと。ピザとかパスタを食べたり、主食をジャガイモにしたら調子が悪くて、メンタルも安定しなかった。

内田選手の自炊した食事例

ちゃんとお米を買って炊いて、ジャンキーなものを食べず脂質を管理したら、メンタルも安定するし練習の質も上がったので食事と睡眠は大切だと改めて感じました。

どんなに良いトレーニング&環境があっても、食事と睡眠の管理ができないと、全然積み上がらないので、いつ何を食べるかというのは非常に大事です。

食事は基本的に1日5回で、練習前、練習後、メインで食べる時間等と分けています。

内田選手の実際の食事例

PG パワグラはどんなときに摂っていますか?

内田 食べるタイミングは、少しお腹が空いたときや甘い物を食べたくなったときです。シーズンが近づいてくると、体重のコントロールを考えるので間食はタンパク質を食べるようにしています。

間食として「パワグラ」を食べている内田選手。自然な甘みで満足感あり

パワグラは、タンパク質が豊富で食べ応えもあるので満足感が得られます。甘い物を食べたくなったときは、メープル味がお気に入りです。

グラノーラだけではなく、ドライフルーツが混ざっているので、食感も良くて美味しく食べています。

内田選手のお気に入りはメープル味

PG 食に関して内田選手のように気を使うのは、プロ選手の間では当たり前ですか?

内田 トライアスロン選手はまだ少ないほうだと思います。専門種目になればなるほどやっている印象です。

たとえば実業団の駅伝チームだと企業の資金力もあり、トレーナーをはじめ衣食住のサポートがしっかりしていますよね。トライアスロンって雇ったとしてもコーチと帯同のトレーナー(マッサージする)で精いっぱい、それに加えて食事管理までする方はあまりいないと思います。強くなる、結果を出すには、トレーニングだけではなく、色んな要素がかみ合ってのことですから、実は食事管理もとても重要なんです。

PG そういった情報をSNSでキャッチする人も多いですよね。発信側を考えても、トップアスリートがSNS等で発信するのが当たり前となっているように感じます。SNSについてはどのようにお考えですか?

内田 僕は時間の調整とトレーニングとのバランスをとるのが難しい。ホントはもっといっぱいやりたいことがあるんですよね。

以前はブログとか写真とかでしたが、今だったら映像で見せたほうが伝わりやすい。それも、結果ばかり「点」で見せるだけではなくて、何で結果を出せたのか、海外行くためのプロセスや苦労や大変だったことを「線」で見せたほうがファンが増えると思っています。

そのための見せ方ってすごく難しい。ひとりでやっていたら時間も掛かるし、ユーチューバーのヒロさんに相談したら、「絶対YouTubeやったほうが良いよ」って、YouTubeじゃなくてもショート動画が良いから映像コンテンツは絶対やったほうが良いよって言われて、伝わり方が全然違うって言ってました。

今、最大の目標はオリンピックで金メダルなので、優先順位を考えて、配信も周りのサポートを借りて行っていきたいと思っています。

>>内田選手のインスタ

時間がないエイジアスリートのトレーニング法

PG SNSでトレーニング方法について学ぶ人も多いですが、プロの視点からフルタイムのビジネスマンが3種目をより向上するためのトレーニング方法があれば、ぜひアドバイスください。

内田 ビジネスマンであれば時間が限られているので、どちらかと言うと「尖り強く」したほうが良いと思います。量が減る分、質を高めるイメージでしょうか。

僕だったら週に2回ポイント練習の日にするかな。平日(水曜)に1回、土曜日または日曜日に1回の計2回をスケジュールに入れます。

バイクであれば、(レースの距離を想定して)40㎞ライドを土日のどちらかで毎週実施すれば、絶対強くなるんですよね。たとえば、土曜にポイント練習のバイク40㎞をしたら、日曜はロングライド(長距離走行)が理想ですね。

バイク40㎞は、約1時弱で終わる分強度は高いですけど、ロングライドは、たとえば100㎞以上の長い距離、長い時間ライドすることで身体に染み付きますし、持久力に効果的かと思います。

または、ロングランでも良いと思います、僕の場合でしたら土曜午前中にバイクのポイント練習40㎞を入れるなら、午後はランのポイント練習を入れています。

【週末メニュー例】

★ポイント練習
▼土曜日
午前:バイク40㎞
午後:ちょっと速いインターバルで1000m×5~8本をレースペースぐらいで入れます。
インターバルは90秒くらい。最初から8本は強度がきついのでまずは3本、慣れてきたら5本、もっと行けそうだったら8本、と徐々に本数を増やすといいでしょう。または、ちょっとペースを落として3㎞×2本とか。
スイムができるのであれば、水に浸かるだけ、感覚だけ、リカバリーとしてという感じでもいいです。もしできなかったら日曜日に1時間~1時間半やれればいいですね。

▼日曜日

ミドルライドからロングライド(まずは60㎞、慣れてきたら80㎞、もっと行けそうなら100㎞)を入れます。

スイムのアドバンテージにとらわれない

PG 具体的にそれぞれの練習方法があれば教えてください。

内田 まずスイムは、平日朝スイムを実施しているクラブチームに入ることをオススメします。最低週3回は泳ぎたい。本当に上を目指すのであれば4回は必要じゃないかな。

ビジネスマンで3回は厳しいでしょ……って思う人もいるかもしれませんが、僕の周りにはけっこういます。でも多くの方は週1回~2回くらいじゃないかな。

週に3~4回トレーニングしているようなエイジの速い人で1500m、22~23分くらいですよね。週1回のスイムトレーニングをしている人はだいたい28分くらいだと思います。

その差は5分くらいだからエイジの皆さんの場合、レースでは3種目のうちで比率の少ないスイムのアドバンテージはあまり必要ないかもしれません。上に行けば行くほど1分、1秒が大切になってくるんだけど、一般的にはそこまで気にしなくてもいいかもしれませんね。

スイムの回数は増やせないけれど、タイムを縮めたいのであれば、泳げないときはチューブ引き(チューブトレーニング)がオススメです。水泳は日常ではやらない動作なので、できるだけ普段からやったほうがいいんですよね。日常生活の中では、鍛えられない部位が多い。

そして、最低でも週1回のスイムは水の中の感覚を養うために絶対やったほうがいいと思います。あとは、ウエットスーツを着ていかに腕を回せるかゲームみたいな感じ(笑)をやってみたり。

チューブ引きや体幹トレーニングなどは、ネット(YouTube等)でたくさん練習メニューが配信されていますので、それを実践してもらうだけで十分です。10分くらいのプログラムを習慣にしてください。

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3種目ではバイクに一番重きを置く

PG なるほど、スイムがある程度泳げるなら、週1回の水慣れとドライランドで十分なんですね。これなら時間がない人にも実践できそうです。バイクはどうでしょう?

内田 バイクは週2回ポイント練習をしてほしいですね。40㎞ライドとインターバル系の何か。

あとは、内乗り(インドアバイク)、外乗りのバランスは大切です。平日の外乗りは現実的に難しいので、内乗りを中心に土日は外乗りをしてほしいですね。土曜はポイント練習、日曜はミドル・ロングライドというバランスがいいと思います。

テクニックでいうとギヤの選択でしょうか。上りとか、コーナーはそんなに攻めないと思いますが、いかに自分に合った重さで回すか。負荷をかけ過ぎるとランで走れなくなっちゃうので。

スイム、バイクはいかに良い状態でランパートにもっていけるかを考えながら競技することが重要です。

状況にあったギヤの選択や、空気抵抗を感じれるとよりレースに近い感覚で対応ができるのでやはり外乗りがオススメです。それを分かってできるのであれば、忙しいビジネスアスリートの場合、内乗りのほうが効率的にはいいですよね。

PG 中にはインドアバイクだけでレースに出る人もいますが、やはり外での実走で感覚を養うことは大事なんですね。一番実践しやすいランはどうでしょう?

内田 ランは週1回ポイント練習(1000m×5~8本)ができるのであれば、あとは全部ジョギングで良いと思います。ジョグは6㎞、もしできないのであれば、平日のジョグ時に100mとか200mの少し速い動作を入れる感じでしょうか。 1,000m×5本をできる日を作れるなら、それ+ジョグで6㎞、時間が許すなら10㎞、週50㎞走れたらかなりいいですね。

僕は15分走を3回やるんですよね。出し切るとかではなくて、地道に押していく、そういう作業をやっています。インターバルで1500mでも一気に上げるのではなくて、レースペースでやるんです。

僕らが主戦場とする、スタンダードディスタンス(スイム1500m/バイク40㎞/ラン10㎞)の最後のラン10㎞をどれくらいで走るかで1kmのペースが分かりますよね。スイム、バイク後の状態によってペースは変わりますので、トレーニングでは、上げ過ぎず下げ過ぎない範囲で設定する感じでしょうか。

僕だったら3分45秒/1㎞のペースを基準に1秒、2秒を削っていく、それが10㎞になると数十秒タイムが縮めることができるからです。

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PG ビジネスアスリートは時間が取れない方がほとんどなので、3種目あったらどこに重きを置いたほうが良いですか。

内田 ビジネスアスリートの方は、絶対にバイクですね。レースでも、シンプルに乗っている競技時間が長いのとバイクで脚を使い過ぎたら脚が重くてまず走れない。自分のランペースをしっかり保てるように、バイク時の脚の使い方を考えていかなければなりません。

トライアスロンをやってる方って、けっこう気合でいっちゃう方、いけちゃう方が多いんです。たとえばランニングでもふくらはぎで走ってても走れるんですよね、でもふくらはぎばかりを使うと攣っちゃう。

最初に正しいフォームや動きなど方向性を整えてから、しっかり乗り込む・走りこむのがいいと思います。トライアスロンを始める人は、継続してコツコツできる方だと思いますが、ときには客観的に見て意見してくれる人がいると、もっといいと思います。

また、やはり一番取り組みやすいのはランだと思うのですが、時間が限られている中で1時間あったら、それをどう使うか考えたとき、1時間まるまる走る人が多いと思うんです。でも、僕だったら5分体幹トレをして、50分走って、5分ダウン体操します。そのほうが結果的に、効率の良いトレーニングになります。

ただ走るだけではなく、最初と最後を丁寧にしてあげれば動きも変わって、可動域を広げる訓練をすることを意識するだけで、全体のパフォーマンスにも影響してくるし、走る時間は10分短いかもしれないですけど、結果的に良い練習に繋がると思います。僕が教えてる皆さんには、最初と最後の体操や体幹トレを意識してもらっています。

現役選手として「内田弦大カップ」主催を目指す

PG 内田選手が、現時点で思い描いているビジネス、トライアスロン、それぞれの最大の目標・最終到達点について

内田 まず、競技の面で言ったらオリンピックで金メダルを獲りたい。トライアスロンは男女ともにまだメダルを獲ったことないんですよね。

今、海外で挑戦している男子選手は僕だけで、そこでちゃんと結果を残してメダルを獲ったらパイオニアになれる。それをできるチャンスが人生にあるってホントに素敵なことなので目指す価値があるなって思ってます。競技としての最大到達点はそこですね。

PG 国内のライバル選手はいますか?

内田 ランキング上位5人ですね。ニナー賢治選手、小田倉真選手、北條巧選手、安松青葉選手、佐藤錬選手、古谷純平選手。安松選手はひとつ下で、北條選手は同い年で、あとはみんな年上です。

トライアスロンの良い所って、競い合える仲間がいるところ、人との繋がりもそうですけど、色々な場所に行けたり、文化や食事に触れたり、トライアスロンやってるから経験できるのかなって思います。

PG 競技以外の目標はなんでしょう?

内田 引退後ではなく現役選手と並行してトライアスロン大会を主催者側で開催したいなと思っています。4年前くらいからずっと思っていて、そのために大阪城トライアスロンを視察的に回ったり、事務局を見たりして費用がいくらい掛かるか聞いてみたり、最低1000万円は必要みたいです(笑)。

スポンサーに相談すると「いけそうだね」と言ってくれました。地元が滋賀県高島市ってところで、今年から内田弦大の後援会を作ってくださったりとか、市長さんと仲良くさせていただいたり、滋賀県には琵琶湖もありますし、昔アイアンマン・ジャパン(ロングのトライアスロン)が開催されていたこともあるし、市で始めると予算などいろいろありますが、自分たちのスポンサーや協賛を募ったら開催できるんじゃないかと思ってます。

現役選手としてもレースに出ていれば、いろいろ取り上げてもらってトライアスロン競技が広がる宣伝になるのではないかと思ってます。

今、「全国のトライアスロン選手に会いに行きます」の企画で全国を回っているのですが、トライアスロンの輪を広げたいという意味もあって、時間が許す限り応援してくれる方々一人ひとりと向き合っていきたいと思ってます。自分がバリバリ選手をしている間にガチのレース「内田弦大カップ」(笑)を開催したいです。