Profile
西川さくら選手 Sakura Nishikawa
2001年、広島生まれの22歳。高校卒業後、有名マラソン選手を輩出している天満屋(女子)へ入社(仕事とマラソンを両立)。ケガの影響で一線から退くも、回復後の2023年、新日本住設(女子)からのオファーで現役復帰。現在は、マラソン参戦、日本選手権の出場、クイーンズ駅伝でのチーム優勝を目標に掲げ、トレーニングに励んでいる。
《所属》
西条農高校 (2017年~2019年)
所属実業団 天満屋(2020年~2021年)→新日本住設(2023年~現在)
ピラティススタジオ「ポルネ」でインストラクターとして活躍
《店舗情報》
「PoRenaî 西宮」
《主な戦績》
高校:中国高校駅伝2区 区間賞、中国五県陸上選手権大会1500m 3位
社会人:全日本実業団出場(天満屋)、岡山県選手権 4位
得意を伸ばして憧れのチームで活躍
PAWAGURA(以下PG) 現在、実業団で競技を続けながら、ピラティスのインストラクターとしてもご活躍されているようですね。
西川さくら選手そうなんです。実業団で、陸上・長距離選手をしながら、会社が運営するピラティススタジオでインストラクターをしています。
PG まずは競技についてお聞きします。陸上競技の中でもマラソン(実業団)を選んだ理由や魅力を教えてください。
西川
今は、陸上選手として走っていますが、昔からその他の競技が本当にできないんです。運動神経が悪いんですよ(笑)。でも唯一、小学生のころから人より少しできたことがマラソンとか持久走だったんです。大会では1位になることもあって、家族に褒められたり、友だちにもすごいねと言われていました。
中学校に入って先生から「やってみないか」と言われたのがきっかけで、陸上競技を始めました。そのまま高校に入っても陸上を続けました。
高校卒業後、本気で陸上一本で行くのか、大学で勉強しながらいくのか、考えて家族に相談したところ、母が「陸上をするんだったら実業団でやってみたら」と言ってくれて、そこで自分も覚悟を決めて実業団を選びました。
PG 天満屋(最初に所属した実業団)に決めたきっかけはありますか?
西川
マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)で、天満屋の選手が1位と3位でゴールしたんです。その姿を見て、「私はこのチームに行きたい!」「マラソンで勝負したい!」と思いました。
その気持ちを高校の先生に伝えたところ、天満屋の合宿に参加させていただくことになりました。その時にこのチームで走りたいという強い気持ちを伝えました。
高校時代の厳しい練習(長距離を積むトレーニング)のおかげで、合宿に参加したときに天満屋のきつい朝練習にもついていけたことがすごく自信になりました。
PG なるほど、得意を延ばしていった結果、陸上の道を選んだのですね。ご自身で長距離のほうが向いていると思うのはなぜですか?
西川私は、チームの一員として走ることがすごく好きなんです。高校のとき、チームメイトのみんなのことが好きっていうのもあって、駅伝の「仲間のために走っている」という感じが好きでした。
しかもタイム的にもトラックよりも駅伝の通過タイムのほうが速いことが多かったんです。レーススタイルも突っ込んでいくタイプで、前に人がいたり、チームメイトが見えるとどんどん突っ込んで速くなっていくので、性格的にもトラックを淡々と走るより、ロードのほうが合っていると感じています。沿道に応援の方がたくさんいるのも好きですね。
PG 西川選手の原動力は、「仲間のために」ということなんですね。お話を聞いていると、そのお人柄からうなずけます。では、競技人生の中で忘れられないシーンはありますか?
西川
ふたつあって、ひとつが高校3年生の中国総体でインターハイ出場を1.8秒足らず逃したことです。目の前にインターハイラインが見えた中で逃したことが今まで一番思い出に残った試合です。
もうひとつが、同じく高校3年生のときの県駅伝で、先生も私たちも本気で世羅高校(広島県)って強いんですけど、その世羅高校に勝つために頑張った。
アンカーの私まで約40秒差で1位だったんですけど、アンカーで最後抜かれて終わっちゃって、その時もみんなで懸けた試合だったので、キャプテンだったんですけど、すごく悔しかったし、結構責任を感じました。
PG ご自身はケガが少なかったようですが、その中でも過去のケガを通して感じることはありますか?
西川
私の場合は、練習をやめることが怖くなって疲労骨折をずっと繰り返した時期があったので、ひとつは休むことがすごく大切だなって思います。
痛くてもなかなか言い出せないこともあって、自分の些細な変化に気づけるのは自分だけだと思うので、そこにしっかり自分で気付くことが大切です。
他人からどう見られるかよりも、自分自身を一番大切にすることが私が大きなケガをしなかったり、ケガを長引かせない要因のひとつだと思います。ホントに自分を大切にするっていうのはケガを通して学んだことですね。
社会人ランナーが効率的にトレーニングする方法とは
PG 社会人として忙しく働く中で、どのように練習していますか? レベルは違いますが、我々一般ランナーにも参考になるかもしれませんので、西川選手の24時間の使い方を教えてください。
西川
基本的に1日2回は走っていて、週3回ほどきついポイント練習をしています。それ以外の日は、自分が受けもつレッスンに応じて変わるんですけど、朝練習を6時30分くらいから行って40分くらいジョグして、9時~10時くらいから17時くらいまでピラティスのインストラクターをして、17時から同じように走ることがルーティンになっています。
実業団って事務作業のチームが多いと思うんですが、勤務内容がピラティスのトレーナーなので自分自身の体幹トレーニングにもなっているし、基本的に1日中身体を動かせているので、そこまで身体に負担とか肩こりもなく日々過ごせています。
PG時間を効率的に使うとなると、一般市民ランナーの方も朝走ることが多いと思うのですが、朝走ることは有効でしょうか?
西川
長距離選手って、マラソン糖(糖質)が枯渇した状態の中でも身体を動かさないといけない状況ってありますよね。朝って一番枯渇状態なので、そういった状況に近いんです。私は、何も食べずに水分だけ摂った状態で軽く走っています。
朝すぐ走るのは、ケガのリスクが午後よりもあるんですけど、その分ストレッチをしっかりすることで体脂肪が減りやすくなったり、気持ちの面でも朝走った後は、スッキリしているので頑張ろうって思えるのは良いと思います。
疲労回復のための睡眠にはこだわりあり!
PG マラソンは消耗が非常に厳しいスポーツですが、リカバーで意識されていることはありますか? リラックス方法などもあれば教えてください。
西川
オン・オフってすごく大事だと思うので、しっかりやる練習は集中して行って、疲労を抜くトレーニングの日もあるので、そのときはきちんと「疲労を抜く練習」だと目的意識をもって行うことが疲労回復に大事だと思います。
それにプラスして、睡眠もすごく大事だと身に染みて感じています。睡眠が疎かになるとその分、身体もどんどん疲れていき、メンタルも疲弊していくので、睡眠はしっかりとるようにしています。
睡眠の質を上げるために、夜は自分の好きな趣味に没頭したり、本を読んだり、良い香りに癒されたりすることで、副交感神経が優位になり、睡眠モードへ切り替わりリラックスすることができます。
PG睡眠についてもこだわりがあるんですか?
西川
枕ひとつにしても自分に合っているものでないと睡眠の質が悪くなってしまう。結構一つひとつこだわりがあるんですよ。
睡眠時間は8時間くらいがベスト。以前は睡眠が十分にとれてないときがあったので、その時を振り返ると、今の身体の感覚だと全然違うなって感じています。
PG仕事でもスポーツでも目的意識をもつことはやはり重要ですよね。毎日の睡眠についてのこだわりをお聞きしましたが、そのほか毎日欠かさず行っていることはありますか?
西川
私、結構ハンドクリームなどの、クリーム系を集めることが好きなんです。いつもお風呂の後は、自分の好きな香りでマッサージをすることはずっと心掛けていています。
あと、毎日ではないんですけど、出勤が遅い日とかは朝練習のあと+α自分でジョグした後に、近くにある勝利の神様の神社にお参りに行くことも日課になっています。
甲子園球場の近くにあるんですけど、走れますようにっていつもお願いしています(笑)。
私がモチベーションを維持するための3つのこと
PG モチベーション維持の方法は何ですか?
西川 いくつかあるのでひとつずつ紹介しますね。
1.目標を明確に書いてみる
スマホで打つよりも紙に書くほうが具体性が見えてくるという気がしています。自分の目標が自分の中でもあらためて実感できるということがひとつと、モチベーションがいつも上がっている訳ではないので、日々ルーティンとして目標を書くことで、モチベーションが下がっているときでも目標を再確認できるので自分の中では毎日やっています。
2.視野を広くもってみること
これは、家訓なんですけど、「視野を広くもちなさい」って言われていて、苦しいときって周りのことが見えなくなりますよね。
そういったときに、チームのことだけではなくて、陸上をやっている多くの方に目を向けるようにしています。市民ランナーの方ってすごく楽しそうに走られてたり、走ることが楽しいっていうのが伝わってきますよね。
自分だけの意見、世界に囚われたくないので、陸上だけじゃなくて、色んな分野の人と話すようにしています。
3.オンとオフの切替を大切にすること
インスタグラムをやっているんですが、市民ランナーの方のフォロワーが増えだして、走りましょうとお誘いをいただくこともあります。
休みの日でもそういう方たちと一緒に走ることで、いろいろなお話を聞けてすごく楽しくてリフレッシュできます。トレーニングとしてのランニングではなくて、休みの日に楽しく走るのはいいですよね。
京都は自然が多いので自然と触れ合いながら、朝から歩き回るだけでも良い運動になるし、休日はそういう過ごし方も好きですね。
長距離で一番大事なのは継続すること
PG マラソンに挑戦している人が聞きたいであろうことを代表して聞きましょう(笑)。長距離の走り方やコツってあったりしますか?
西川 長距離って継続が一番大事だと思います。私自身は、才能がすごくある選手ではありませんでした。高校に入って、負けたくない一心で走りこんでいたら、いきなりポンっと伸びたので腐らずに継続して良かったなと思っています。 走り方は、それぞれ個性があって走りやすさは違うので、私は脇が開くって言われるんですけど、それを意識したら逆に走りにくくなっちゃうので、ケガに気を付けながら走りやすいフォームで走るっていうことが一番大事だと思います。
PG 市民ランナーやトライアスリートが、仕事をしながら限られた時間の中で、ラントレーニングをどのようにしていったらいいか悩んでいる人も多いです。アドバイスがあればお願いします。
西川
市民ランナーの方のインスタグラムを拝見させていただくと、10㎞とかをそこそこ速いペースで走っている方が多い印象です。それもすごく良いことだと思うんですけど、たとえばそれよりも1~2分遅いペースでもいいので、1時間半とか2時間とか長く走るような力を身につけるといいと思います。
トライアスロンって言ったら3つの種目をするので一番持久力が大事なスポーツですよね。たとえば、それこそエネルギーが枯渇状態の中で2時間ゆっくり走ってみるとすごく身体の変化ってあると思います。
最初はキツイと思うんですけど、「ゆっくり長く走ってみる」ことで、筋繊維が増えると言われているので、しっかりゆっくり長く走ることは長時間のスポーツの中では一番良いんじゃないかと私は思います。
水泳してバイクして走ってとなるとマックススピードで走ることは難しいと思うので、一定のペースで走れる足を作ったり、耐えられる身体を作るっていうのはすごく大事だと思います。
また、身体のバランスが崩れやすいと思うので、3種目だけじゃなくてストレッチにもフォーカスして身体が整ってくると、身体の感覚が変わってきます。
アスリートにオススメのピラティス
PG 現在、インストラクターをしていらっしゃいますが、アスリートにピラティスをオススメする理由は何でしょうか。
西川
ピラティスっていうのは、兵隊さんのリハビリが基になった運動なんですけど、身体の構造に基づいて呼吸とともにしっかり行っていくことが根本にあります。
動きの中でも色んなレベルあって、ケガの復帰に向けたものだったり、レベルが高いものだったりがあります。アスリートの方は筋力がたくさんあるんですけど、股関節を動かして可動域を高めていく動きなどができない方も多かったりする。
筋力で補っていて関節回りがすごく硬い人だったら、股関節の可動域を広げることで、フォームが改善されてストライドが伸びていくので、タイムを短くするのにつながっていくと思います。
しなやかでしっかり動かせる筋肉を作っていくことが主なので、今ではプロ野球選手でも取り入れている方もいるので、すごくオススメです。
PG アスリートのセカンドキャリアについてどのように考えますか?
西川
私は高校を卒業して実業団ランナーになりましたが、大学卒業と高校卒業というのは、社会に出たときに少なからず差があると思います。
そういう面でピラティスのトレーナーは手に職をつけられることだと思っているので、大事にしていきたいなと思っています。
学歴などは関係なく、どう本気で取り組むかでインストラクターとしての腕も変わってきます。そういう面では所属している新日本住設の社長がセカンドキャリアについて考えて、ピラティスサロンを作ってくださったことは、素晴らしい取り組みだと思います。
PG 今後の陸上選手としての目標は何でしょうか?
西川
今年、新日本住設実業団としてクイーンズ駅伝への出場を目標としていて、そのために、ますプリンセス駅伝っていう予選でしっかり勝つこと。
勝つために個人のタイムが大事だと思うので、チームとして頼られるような存在、「さくらがチームにいて良かった」と思ってもらえるようにまず自己ベストをしっかり更新すること。
あとは、やはり私の中では、マラソン選手として走りたい気持ちもありますし、日本選手権に出たいっていう部分もすごくあるので、個人としてもしっかりタイムを残すってことが目標です。
私がケガをして復帰して、結果を残すことで同じような境遇の人たちも戻れるんだと思ってくれると思うので、色んな人に元気を与えられるような選手になりたいです。