トライアスロンは仕事での成長につながるか?〈2〉

トライアスロンを楽しみながら仕事との相乗効果を生み出している3人のトライアスリート(※プロフィール記事末尾)が登場した「TRIBizeez(トライビジーズ)supported by PAWAGURA」オンラインイベント第2弾(2022年11月24日開催)。

脳科学が証明する
運動のメリット

大西勇輝さん(以下、大西)私が昼に運動するのは、トレーニングというだけでなく、リフレッシュ、リセットするという目的もあります。

昼休みは休む時間という人が多いですが、私の場合は軽く運動して、シャワーを浴びる。特に夏のランニングはサウナ効果があります。汗だくになって、水シャワーを浴びることでスッキリし、午後の仕事の効率が上がる。

なぜ運動するとスッキリするのかということに興味があって、『運動脳』『スタンフォード式 人生を変える運動の科学』など、色々な本を読んでいるんですが、こうした本には運動と脳のメカニズムに関することが書かれていて、運動するとスッキリするのは脳科学的にこういうことがあるからなんだと納得できました。

特に面白かったのは『運動脳』という本で、運動がネガティブな精神状態を改善して、仕事の効率を上げたり、発想の柔軟性を高めたりするにも良いといったことが書かれています。

運動脳
「運動脳」(アンデシュ・ハンセン 著、御舩由美子・訳/サンマーク出版・刊)

フリーランスの時代には仕事に打ち込んで、あまり運動していなかったんですが、振り返ってみると、首や肩が痛くなったり、運動できないことで気持ちがモヤモヤしたり、調子はあまり良くありませんでした。

今は運動が心と身体のバランス、コンディションを整えるのに不可欠と感じています。

仕事とトライアスロン
どちらかがON/OFF

前田直昭さん(以下、前田) 私は仕事の忙しさに応じて、仕事とトライアスロンのON/OFFも変わると考えています。

仕事がすごく忙しい繁忙期は、仕事がON。仕事自体のチャレンジを楽しむ。

そういうときは「トライアスロンの練習ができない」とネガティブに考えず、練習はリラックスして気分転換、回復のためにやる。つまりトライアスロンはOFFと考え、ランならジョギング、スイムならリラクゼーション的な泳ぎなどをやる。

一方、仕事が安定している時期は、トライアスロンがONになり、トライアスロンの挑戦を楽しみます。レースの目標を掲げてしっかり取り組む。たとえば私が京都の研究所にいたときは、自分の世界でできる仕事だったので、そういったときは思い切りトライアスロンで挑戦しました。

そうすることで、仕事もトライアスロンも相乗的にエネルギーが増えていって、仕事で増えたエネルギーはトライアスロンでも使えるし、トライアスロンで増やせたエネルギーは仕事にも使える。そういう好循環があることで、仕事とトライアスロンをすごく楽しくできました。

仕事が忙しくコントロールできないときは、トライアスロンを「OFF」、つまり気分転換や回復目的で取り組む(前田さんのイベント当日資料より)

福田聡子さん(以下、福田)前田さんは仕事とトライアスロンを最初からつなげようとしたんですか?
それともだんだんつながっていったんですか?

前田 仕事とそれ以外のことを、どちらもポジティブにやっていこうという姿勢は昔からあったと思います。

たとえば社会に出てまもなくビーチクリーン活動を始めたときも、ゴミ拾いをネガティブなことにしたくないということで、スローガンに「楽しむために必要なことも楽しもう」みたいなことを掲げていました。

福田 つなげることが昔から得意だったんですね。

前田 私の場合、仕事もトライアスロンも振れ幅が大きく、取り組み方は大きく変わりましたが、自分の中でどちらかにエネルギーが出しきれていないということはなくて、どの時期も楽しいんです。

トライアスロンは、入れ込む時期も気分転換の時期も、どのスタイルでも受け入れてくれるスポーツだなと思います。

今年のレースは以前の3分の1から半分くらいのトレーニングで挑んで、タイムは全然良くなかったんですが、それなりに工夫しながら取り組んで、楽しむことができました。

いろんな楽しみ方を受け入れてくれるのもトライアスロンの魅力かなと思います。

トライアスロンで
心のコンディショニング

福田 トライアスロンが仕事に与える良い影響というのはたくさんありますね。

ひとつはコンディショニング効果です。前田さんも大西さんもおっしゃっているように、身体だけでなく心もできるだけ良い状態に保つために、トライアスロンはすごくいい。

トライアスロンを始めてから気づいたんですが、自分を限界より上へ伸ばそうとすると、自分の心と身体との対話、内省が生まれます。たぶんトライアスロンをやっていない人と比べると、そういう自分と話す時間が相当多いんじゃないかと思います。

反省ではなく内省ですね。そういうものがもたらす心への作用というのはとても大きくて、頭がクリアになって、物事を決めていくのにプラスに作用します。

物事を決める、決断するというのは、最も脳に負担がかかる行為なんだそうで、何か決めるときには、気持ちのコンディションをできるだけ良くしたい。トライアスロンは、そういう決断がブレたりしないように助けてくれます。

チャレンジで成長が生まれる

大西 私は「チャレンジ」というのがひとつキーワードだと思うんです。

私は基本、大会に出なくてもいいと考えていて、自分の好きなペースで泳いで自転車に乗ってランニングしているだけで楽しい。コロナ禍で3年くらい大会がなくても、変わらず走ったり自転車に乗ったりしていました。

しかし、今年3年ぶりに大会に出ることになり、新たな発見がありました。それはチャレンジングな目標を設定することで意識が変わるということです。

うまく走れたり走れなかったりするたびに、「次はこうしよう」ということが出てくる。当たり前のことですが、何かチャレンジを設定することで、次のステップに進むためのモチベーションが生まれる。

日々続けるためには、ただ続けるだけでなく、ちょっとチャレンジングなことを自分に課すというのが大切だなと、あらためて感じました。

「ストレッチゾーン」と
「コンフォートゾーン」

福田 大会に出ていないと、成長していくための感覚が鈍くなりますよね。コンフォートゾーン、つまり自分にとって心地よいゾーンにずっといると、人間は成長しない。

それに対してストレッチゾーン、自分を引き伸ばすゾーンでは成長する。

さらにその先にはパニックゾーンというのがあって、これはほんとにパニックになってどうしていいかわからなくなり、パフォーマンスが落ちるんですが、うまくストレッチゾーンに自分を置いて、パニックゾーンとの間を行ったり来たりすると成長できます。

トライアスロンはそういうことができるスポーツなのかなと思います。つまり脳に対する刺激がすごくある。たしか、大西さんが紹介された『運動脳』という本にもそういうことが書いてあるんじゃないかと思います。

大西 負荷とか、危機を感じるというのは、すごく良いと書いてあります。

福田 もう一冊、大西さんがさっき持っていらした『スタンフォード式 人生を変える運動の科学』という本の著者ケリー・マクゴニカルも、「ストレスは悪いことではなく必要なことだ」と言っていたと思います。

他人との比較ではなく
自分との対話を大切にする

前田 私は客観的に自分を見るようにしています。他人と比べるのではなく、自分に関心をもって、データで見てみたり、自分の心と対話してみたりする。

ただ生活していると、そういうことをする機会がなかなか生まれませんが、トライアスロンというのはそういう自分との対話が生まれやすいスポーツですし、私はそれを意識的にやっています。

ノートをとってみたり、データで客観的に見てみたりというのは、トライアスロンを始める前からやっていましたが、トライアスロンはストレッチゾーンの時間がかなり多いので、自分を客観的に見てわかったことを成長に生かす機会が多い。

コンフォートゾーンとストレッチゾーンの負荷をそれぞれ上げていくことで、全体のパフォーマンスが上がっていくということも生まれます。

以前は自分にとって高負荷と感じられたペースでも、心地良くこなせるようになってくる。つまりストレッチゾーンだったことが、成長によってコンフォートゾーンになっていくといった成長もあります。

福田 前田さんが今おっしゃった「他人と比べない」というのは、私も大切にしていることのひとつです。

成長のためにはタイムを比較するといったことも必要ですが、トライアスロンの本質は自分との戦いだと思います。

アイアンマン・ケアンズに最初にチャレンジすると決めたとき、竹谷(賢二)コーチから言われたのは、「最終的にケアンズで完走すればいいんだから、それまでのプロセスは絶対に人と比べないように」ということでした。

大切なのは自分との戦いだから、人のことは参考にはしても、優劣で見るような比較はしない。トライアスロンはそういうことを体感できるスポーツだなと思います。

イベント参加者よりZoomチャットコメント:

ストレッチゾーンの話、とてもうなずかされます。
トライアスロンは大会の距離を選べるので、自分に適した負荷を選びやすいですよね。

内発的な動機を大切にし
継続につなげる

前田 私は客観的に自分を見るようにしています。他人と比べるのではなく、自分に関心をもって、データで見てみたり、自分の心と対話してみたりする。

ただ生活していると、そういうことをする機会がなかなか生まれませんが、トライアスロンというのはそういう自分との対話が生まれやすいスポーツですし、私はそれを意識的にやっています。

ノートをとってみたり、データで客観的に見てみたりというのは、トライアスロンを始める前からやっていましたが、トライアスロンはストレッチゾーンの時間がかなり多いので、自分を客観的に見てわかったことを成長に生かす機会が多い。

コンフォートゾーンとストレッチゾーンの負荷をそれぞれ上げていくことで、全体のパフォーマンスが上がっていくということも生まれます。

以前は自分にとって高負荷と感じられたペースでも、心地良くこなせるようになってくる。つまりストレッチゾーンだったことが、成長によってコンフォートゾーンになっていくといった成長もあります。

福田 前田さんが今おっしゃった「他人と比べない」というのは、私も大切にしていることのひとつです。

成長のためにはタイムを比較するといったことも必要ですが、トライアスロンの本質は自分との戦いだと思います。

アイアンマン・ケアンズに最初にチャレンジすると決めたとき、竹谷(賢二)コーチから言われたのは、「最終的にケアンズで完走すればいいんだから、それまでのプロセスは絶対に人と比べないように」ということでした。

大切なのは自分との戦いだから、人のことは参考にはしても、優劣で見るような比較はしない。トライアスロンはそういうことを体感できるスポーツだなと思います。

大西勇輝さんYuki Ohnishi

学生時代は横浜高校野球部、順天堂大学トライアスロン競技部で活躍。教員、アウトドア系スポーツ施設の運営・プロデュース業を経て、現在サイクルアパレルメーカー「パールイズミ」でマーケティングを担当。「PI TRI」や「PICC」などのスポーツコミュニティーを主催するほか、PR活動や商品企画、サイクルプロチームのサポートなども担当。トライアスロンやサイクリングを通じて、生涯持続可能なアスリートライフを提案している。1981年、大阪生まれ。1児の父。

大西勇輝さん

前田直昭さんNaoaki Maeda

2013年にトライアスロンデビュー。51.5、IM70.3セントレア、宮古島など、ショートからロングまでレースを楽しむ。仕事では大学卒業後、プラントメーカーのエンジニア、経営コンサルタントを経て、化学メーカーに移りビジネスプロセスの改革を担当。現在はデジタル変革推進を手がけている。また、社会人2年目の2000年にNPOを立ち上げ、海川の清掃や子どもの環境教育などにも取り組んでいる。1976年、千葉生まれ。4児の父。小田原在住。

前田直昭さん

福田聡子さんSatoko Fukuda

ウィスコンシン州立大学卒業後、人材育成企業に入社。人材育成のスペシャリストとして活躍の幅を広げ、2000年にグローバル・エデュケーション株式会社を設立。大手企業向けのグルーバル化人材・自立型人材の育成を手がける。現在、クライアント約400社のグローバル人材育成をサポートしている。2020年から同社代表取締役。講師、コンサルタント、経営者として忙しい日々を送る中でトライアスロンと出会い、オリンピックディスタンスからアイアンマン、エクステラまで幅広くレースを楽しむ。1969年、東京生まれ。

福田聡子さん

小嶋隆三さんRyuzo Kojima

歯科医師、株式会社RMG代表取締役、TRIBizeezの主催者。大学卒業後、大学病院などで実績を積み、2013年、29歳で個人クリニックを開業。同時に株式会社Ryuメディカルグループ(現RMG)を起業。その後、食の面から健康な生活スタイルをサポートする予防事業にも進出し、2020年にアスリートのための自然派グラノーラ「パワグラ」を開発、販売を手がける。年間10前後の大会に出場するトライアスリートでもある。

小嶋隆三さん